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名古屋高等裁判所 昭和25年(う)1232号 判決

被告人

岩田満

主文

被告人岩田満に対する原判決を破棄し、本件を名古屋地方裁判所半田支部に差戻す。

理由

弁護人小野久七の控訴趣意第三点について。

所論は、原判示第二の四の事実は少くとも被告人と藤田満、田中隆一との共同正犯であるにかゝわらず、原審が被告人の單独犯行と認定したのは、事実誤認であるというに帰する。仍て記録を精査するに本件起訴状(八六丁)には、被告人は藤田満、田中隆一と共謀の上昭和二四年八月七日午後五時頃碧南市字加須二番地生田美子方に於て同人所有の銘仙袷女着物一枚外衣類三点、白米四升五合位、木綿手拭二本、竹製手さげ籠等七点を窃取した旨の公訴事実の記載があり、原審第二回公判調書の記載中被告人の供述は右公訴事実を全面的に認めているのみならず、被告人の司法警察員に対する供述調書(昭和二四年九月四日附)中の同人の供述記載によれば、被告人並びに藤田満、田中隆一の三名は相談の上留守の家をさがした末、生田方に入つたのであつて被告人は田中と共に表の間で目ぼしいものをさがしていたが盜まうと思うものがなかつた。ところが奧の間に入つた藤田が風呂敷包を持つて出て来て「行くぞ」と云つて裏口から出たので自分等も直ぐ後から出たというのであり、又藤田満の司法警察員に対する供述調書(昭和二四年九月六日附)、田中隆一の司法警察員に対する供述調書(昭和二四年九月四日附)の各謄本中同人等の供述として、夫々右三人で生田方に入り藤田が衣類を、田中が白米を盜み出した旨の記載があつて、以上何れも被告人と藤田、田中の共同正犯を認める資料はあるけれども被告人の單独犯行を認むべき証拠は本件記録中には存しない。従つて原審が原判示第二の(四)に於て被告人が昭和二四年八月七日頃生田美子方に於て同人所有の銘仙袷女着物一枚外衣類三点、白米四升五合位、木綿手拭二本、竹製手提籠等計七点を窃取した旨説示し、以て右窃盜の事実を被告人の單独犯行と認定したのは事実の誤認といわざるを得ない。ところで、前掲の被告人の司法警察員に対する供述調書並びに藤田、田中等の各司法警察員に対する供述調書謄本の記載によれば原判示の衣類や白米を窃み出したのは藤田や田中であつて被告人ではない。故に被告人が藤田、田中と共同正犯であるとの認定の下に初めて被告人は藤田、田中の行為の結果に対しても責任を負う筋合となるのであるから、右の事実誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかである。而して此の犯罪事実は他の犯罪事実と共に併合罪の関係に於て処断されたのであるから此の点に於て被告人に対する原判決は破棄を免れず論旨は理由がある。

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